白鯨

白鯨 上 (岩波文庫)

白鯨 上 (岩波文庫)

白鯨 中 (岩波文庫)

白鯨 中 (岩波文庫)

白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)

白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)


二ヶ月ぐらいかかってやっと読了。
その間、他の本(発売日の漫画除く)をまるで読めずに積み本が増えていく事に。
昨日、ようやく開放されました。


白鯨といえば有名なのはエイハブ船長ですね。
次元大介も何かのTVスペシャルでどなたかを白鯨の船長みたいだと言ってました。
誰だっけ。


海洋冒険譚…でいいのかな。合間合間に博物学というか鯨学をおりまぜつつ、
エイハブの足を奪った白鯨を追いつづけて最後に…というお話。
この鯨学のところで壁にぶち当たる人が多数いるんじゃなかろうかと。
唐突に、しかも当時の知識なので現在の真実とは若干ずれた解釈で長々と鯨の分類、骨の構造、生態などを語ってくれます。
唐突にというのは本当に言葉どおりで、まあ、この話は全体的に独立したエピソードの積み重ねともいえるのですが、
脈絡なく鯨に付いて語りだす作者。
これだけの博識を披露しながらも、作中ではほんの下っ端で、船長に名を呼ばれることすらない。
そもそもイシュメールという自称からして偽名らしいのだけども。


なんとも型破りでいて、全体としてはやはり白鯨に命をかける男達と、
そんなのどうでもいい男達の織り成す船の上の日常を宗教観を絡めながら描く物語として完成している。
解説に書いてあったけども、序盤、船に乗るまでのエピソードの間で、
「蛮人」クィークェグとの出会いなどから、主人公イシュメールは宗教的にニュートラルな立場に自分をおく事になる。
なるほど。
当時のアメリカには激しい人種差別、宗教的偏見があったはずで、登場人物もみな自分の信じる神に基づいてしか考えない。
そんな中、完全な傍観者として、話のプロットにとにかく徹底的に関わらない主人公は、
鯨相手の死と隣り合わせの日常を描く時に、一応「大いなる神」の存在は意識しながらも、
様々な宗教の人間が乗るアメリカにたとえられる船の隅々を描写するのにはこの立場が一番全体を見渡しやすかったのかもしれない。


鯨の、そして鯨学の前には人種の差など微々たる物であり、
ちっぽけな船の中で、一人一人がそれぞれ信じる神が違おうと、
鯨は鯨だというある種盲目的な情熱のみが主人公を語らせているというか。
そんな気持ちを感じました。


全体的な感想としては。
当時読んだ人々の反応と今の反応は違うだろうけども、特に捕鯨に携わった事のある人が読むと結構おもしろいかもしれない。
正直、今の僕の感覚でいうと変な本です。
昔からかなり研究されているらしいんだけど、それは分かる。謎の多い本でもあるらしいし。
魅力的な言い回しも多く、ファンも多そう。
ただ、一回読んだだけではちと本当の魅力は分かりにくいんじゃないだろうか。
そのくせ、長いのでもう一回読む気力は僕にはない。
線を引きたい箇所もいっぱいあった。そういう意味では素敵な本だと思いました。


ところでコーヒーショップのスターバックスは、この本に登場するスターバック一等航海士に由来するそうですが、
どこかに書いてあったけども、確かにコーヒーなんてこれっぽっちも出てきませんでした。