シャドウ・オブ・ヘゲモン

シャドウ・オブ・ヘゲモン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

シャドウ・オブ・ヘゲモン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

シャドウ・オブ・ヘゲモン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

シャドウ・オブ・ヘゲモン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

ついにガキんちょ同士で愛が芽生えた!


なんだか洋画アクションもののような成り行きではあるけども、2人の背負ってきたものは脳みそ空っぽで楽しめる娯楽映画のそれとはまるで違う。


さて、今回はまた趣向を変えてきました。単なる続編を書かないという点で、このカードという小説化は非凡な才を発揮しているなぁ、と感じます。同時に次の本が楽しみでしょうがない。

あとがきで触れてありましたが、彼の次男はミロと同じ境遇だったんですね。なるほど。やっぱり自分の経験をフルに活用しているなぁ。キリスト教も相当な位置を占めているし。


内容の方はといえば、南・東南アジアを舞台とした国獲り物語。世界地図が頭に入っていないと分からない部分もあるでしょうね。まあ、身近なアジアってことで地図を実際に開くことはなかったけども。アフリカが舞台だったら少し大変だったでしょう。あ、さすがにアルメニアは分からなかった。
逆に、私は世界史にまるで疎く、史実に例えた話は結構苦労しました。こんどポーランド侵攻あたりの本を読んでみようと思う。タイも興味深いし。
例外的に「ブリセイス」という名は、映画の「トロイ」を何度も見ているからよく理解できました。


外伝の続編というと、どんどんエンダーのゲームからの位置が離れていくように思えるけど、実は重要な時期を補完する本です。エンダーの兄ピーターが世界の覇者「ヘゲモン」となったことは、『ゲーム』の続編『代弁者』で既成事実(というか歴史)になっていたけど、本作はその詳細な経過が説明されている本でもあるから。こうやってどんどん空白が埋められているのを目の当たりにすると、一つの空想世界が柔軟に作者によって構築されていくさまが見て取れて、ダイナミックなシリーズに出会えたなぁと感慨深くなります。
(余談ですが、ヘゲモンという言葉から連想するのは「ガサラキ」のクライマックス。西田氏が日本への刃を納めた合衆国大統領に「アメリカはヘゲモニズムを捨てた」という言葉を喋ります。印象的なシーンだったので今でも覚えいます。)


ところでこの上下巻の表紙。
シリーズ通して加藤直之氏によるものです。前作も表紙がいいなぁと思っていたけど、今回のはちょっと難しくて別の意味で面白い。
まぁはっきり断定はできないけど、上巻はビーンとシスター・カーロッタだと思う。カードは人物の外見をまるで描写しないので、こうやって見ると背の高い女性と小さな少年の対比が、今まで彼らがこう見えていたという具体的なイメージに繋がる。ビーンは作中でどんどん背が伸びていくので、おそらくこの描写は上巻の範囲内の設定なのでしょう。
例によって上下巻並べると絵が完成するようになっているので、上巻の右に下巻を置いたとき、一つのシーンに見えるんだけど、下巻でビーン達に向かい合うように描かれている3人はそしたら誰だ?と思うわけで。下巻を読まない段階だと想像するしかない。えらそうに立っている少年、横でしゃがんでいる少女、そして武装した大人。少年はピーターだろうか。アシルだろうか。もしかしてスリヤウォングか。それともそれ以外の誰か?
ってことで、この続き絵は下巻のいずれかのシーンが描かれていると思っていた。

読み終わったら分かるけど、この下巻の表紙はクライマックス、彼らが決着をつけるあのシーンだ。そして、そのとき、上巻に描かれたビーン達はこんなシチュエーションではありえない。なぜなら……。

別々のシーンを上下巻にもってきて、上巻は上巻でしかありえない描写を、下巻も同様。なのに、この向かい合った対決の構図。推測で書いてはいるけど、読み終えて意味の分かるスバラシイ表紙じゃないですか。


内容で残念なのは、本編で決着はついたとはいえ、完全な決着は次巻あるいはそれ以降に持ち越しとなったこと。いや、欠点じゃなく、なんか悔しいというか。ビーン同様、僕もアイツが憎い。早く完全に決着をつけないと、ヤツは不死身だからなにやら次の巻に登場しやがる。次の巻のあらすじにも完結の文字は見えなかった。まだまだ続くのか?


ということで、手元にはエンダー編の完結編たる「エンダーのこどもたち」と、このビーン編の続編「シャドウ・パペッツ」があります。どっちから読もうかかなり迷ったけど、おそらくこの「シャドウ・オブ・ヘゲモン」の直後から始まるであろう「シャドウ・パペッツ」を先に片付けてしまおうと思っています。早くアイツの息の根を止めてやれ、ビーン。あるいは他の結末が待っているのか。「つづく」なのか。分かっているのは、ピーターが勝者となる未来と、ビーンに残された時間はあとわずかということ。それだけ。