死者の代弁者

死者の代弁者〈上〉

死者の代弁者〈上〉

死者の代弁者〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

死者の代弁者〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

「エンダーのゲーム」が以下続刊だったのは、読み終わった直後の書籍案内で知った。

「エンダーのゲーム」は、もちろん単体として素晴らしい完成度を持っていたので、十分お腹いっぱいになっていたんだけど、やっぱり続きがあれば読みたくなるもの。それがたとえ上下巻に分かれていて結構なボリュームだとしても。ジュンク堂辺りに行かないと買えないとしても。
……そして今度は書店で知る。この作者はエンダー本を次々出していたのか。やばい。うわ。ビーンが主人公の外伝まである。どっちを読めばいいんだ。と、狼狽。とりあえず置いてある順番どおりにこちら「死者の代弁者」をまず買いました。


マンガは続き物になるのが当たり前だけど、小説は大概、一期一会。それが美しいと同時に寂しくもある。でも、一冊限りと思い込んでいた素敵な小説に実は続編があると知ったときの嬉しさたるや相当なものがありますね。


いや、そうじゃなくて、やばいと思ったのは、ほら、10冊も20冊も続くと他の本が読めなくなるじゃんということで。基本通勤の電車でだけ読むので、読むスピードが遅いわけです。でも旭山動物園の奮闘記だって読みたいし、ホームズの新訳新刊が出れば優先的に読むわけですよ。まぁ今回の場合7、8冊で済みそうです。それでも結構な量だけど。


個人的に名作と感じる基準があって、簡単なことですが、週末に我慢しきれなくなって家で続きを最後まで読んでしまったら、間違いなく僕的名作認定。そういう意味では、前作とこの続編「死者の代弁者」は合格でした。特にこの「死者の代弁者」は、下巻をまるまる今日土曜日一日を費やして読みきってしまったのです。


ゲームやアニメに慣れ親しんだ人間が前作を読んで、次回作があると聞いたときに期待するのはやっぱり戦争ものなんじゃないでしょうか。その期待は見事に裏切られ、しかもエンダーは見た目麗しい20代をすっ飛ばしてまもなく中年になるという。いやいい男には違いないんですが、さすがですね。この年齢が彼の行動に説得力を持たせるのに一役買っているんでしょう。


幼い天才戦闘指揮官が、まるで神官のような「死者の代弁者」にジョブチェンジして進むこの話、結構前ふりが長くて、登場人物も多くて戸惑ったけれど、結局見せ場はエンダーが下巻で作り出したとある家族の氷解の物語。コミュニティの人々を前に、隅に追いやられた家族の「真実」を<代弁>するくだりはやっぱり興奮しました。家族の中心人物ノヴィーニャとその個性的な子供達を丁寧に描写して、一人一人がどう思い、どう動くのか、<代弁者>エンダーに家族の恥部を公にされたとき彼らがどう変化したのか、それは良いことだったのか。たくさんのことを考えさせられました。
今の時代、こんなことができる人が、しようとする人がいるでしょうか。解説にも書かれていましたが、勇気のいることです。依頼者自身にすら、憎まれるかもしれない。でもエンダーには信念がある。彼はとにかく真実を語る。


結果的にノヴィーニャとその家族は救われました。コミュニティを空気のように覆っているキリスト教ではなく、キリスト教が異端の者として排斥しようとしていた代弁者によって。でも、それは逆に司教たちとエンダーの信頼関係を築いてしまう。真実とはやっぱり強いものなんだなぁ。
でも、現実にそんなにうまくいくこともないよね。とも、思った。まあ、今僕らが生きている文化とこの話の中の文化はやっぱり違う。身分の上の人間が下の人間のあらゆるファイルを見ることが出来るとか、そういう決まりごとが前提として存在しているのです。


エンダーはそもそも代弁者をしながら本来の目的を遂行するために星を探していました。
自分が滅ぼしてしまったバガーが再び繁栄できる場所を探す旅。終盤、話の舞台となったルジタニアの原住民ビギーと人間、そしてバガーの共存を目指し、序盤に語られた不可解な研究者達の死という伏線を一気に解いてかかる。当然、この事件がノヴィーニャの家族の不幸と密接なつながりがあって、それがいろんな伏線を生んで読み進める原動力となったわけだけど、そのせいでこの話は少々複雑の度合いが激しい。
まあ、このあたりの異世界人との決定的な思考形態の違いというのはどんな想像をも凌駕するようなものであるというのは読みながら覚悟ができていたので、ピポやリボの死の理由という序盤を引っ張った大いなる謎は落ち着くべきところで解決したなぁ、と。


それより、終盤意外な事態が発生して、星そのものが危機に陥る。人類が彼らを星ごと滅ぼそうと艦隊派遣!でも残りページ数は少ない!
あぁ。続くのか。


ってなことで、気分的には3部作の第二部を読み終えた感じがします。
内容盛りだくさんで、書きたいことの半分くらい書けてない気がするけど、まぁいいです。面白かった。続きは早速ジュンク堂で調達してきたので、次の「ゼノサイド」を月曜から読むことにします。




そういえば、ジェインとエンダーの関係が、「月は無慈悲な夜の女王」のマイクと主人公の関係のようでいて、ジェインの挙動が予想の斜め上を行ってくれたのが面白かった。おそらく続編でもジェインは活躍してくれるでしょうが、マイクより少々ひねくれモノな「彼女」がもう一度ぐらい僕を驚かせてくれる事を期待します。それにしても「ジェイン」の章は読んでいて感慨深いものがありました。ジェインの喪失感が人間の僕にも十分感じられる……。作者の力量に感服です。